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劇場版 鋼の錬金術師 ネタバレ感想2

エドとハイデリヒ

釘宮さん以外の人が声を当てると知った時点でハイデリヒへの期待は消失していた。
ところがこれに、思いもよらぬ効果があった。
エドの気持ちが如実に伝わってきたのだ。
どんなに鎧だったアルをなぞらえた台詞であっても、釘宮さんだったらこう表現するだろうという処から見事に外れた表現をしてくる。ともかく違和感があるのだ。
アルだったらこんな言い方をしない。アルならこういう台詞は絶対こう言う。
その歯がゆさは、まさにエドの心情のように思えた。

エドもきっとそんな風に思ったのではないだろうか。
そしてきっとその度に思い知る事になったのだろう。
彼は自分の弟アルではないのだと、イヤでも現実を目の前に突きつけられてくる。
それに耐えられず、エドはハイデリヒをファーストネームで呼んでいたのではないだろうか。
ハイデリヒをアルに重ねて見る。
これは現実じゃない。ハイデリヒは自分の弟アルが育った姿なのだと。
声を聞けば分かる。目を開ければ、髪の色だって、目の色だって違う。
面影以外似ている処なんて何もありはし無い。
それなのにその全てをエドは否定した。
ハイデリヒはアルではないという事実から、耳を塞ぎ、目を閉じた。

だからこそ、エドは、ハイデリヒに自分の世界の話などしていたのだと思えた。
普通に考えれば、別世界だなんてそんな突拍子もない話を、信じて貰えるわけがない。
ちょっといっちゃってるあやしい奴だと思われたら、ハイデリヒはエドから離れてしまうだろう。
そんな奴じゃないと見込んで話をしていたのか?
自分の世界は確かにあると、口にせずにはいられなかったのか?
言えば否定されるのに?
ハイデリヒはエドの作り話と笑い飛ばしていた。
エドも向きになって反論していた。
そんなことを2年間も不毛に繰り返していたのか?
どうも理解し難いこのエドの行動も、こんな風に想像すれば納得できないだろうか。

ハイデリヒは本当は自分と同じようにこの世界に来てしまったアルで、
元の身体に戻ったけれど記憶を失って自分達の旅のことを忘れてしまったのだと、
エドは思いこみたかったのではないか。
だからことあるごとに向こうの話をハイデリヒに吹き込んでいたのではないだろうか?

ホーエンハイムという、鋼世界が確かにあったと信じられる存在がそばにいたころは良かった。
ロケットさえ作れればなんとかなると思っていれば。
けれど、どんな事をしてもそれが不可能だと分かってしまった時。
そんな事が絶対ありえないと分かっていても、
アルが元の身体に戻れた事を信じたくて、
ハイデリヒ=アルと信じることで精神の均衡を保っていたのかもしれない。

「どこまで行ってもオレはここから逃げられない」
ロケットで宇宙の果てまで行っても、
事実から目を逸らして生きていようとも、
常に目の前に現実はある。受け入れがたい現実が。
自分の気持ちを誤魔化すことなんて出来ない。
こんなのは嘘だと、自分を騙しているだけだと分かっていても。

ここはアルが人の身体を取り戻して今自分のそばにいるのだと。
夢にまでみた世界なのだと。信じることで逃げたかった。

その結果。
エドはハイデリヒという人格をまったく見なくなっていた。

そこへ起きた事件により、今度はこの世界との乖離がエドの中で芽生えた。

アルは確かにアメストリスにいた。人の身体に戻って。
アルがいる。アルが自分を元の世界に戻してくれる。
もうロケットも関係ない。この世界は必要ない。
もう無理にハイデリヒにアルを重ねて見る必要もない。
それは逆に言えば、ハイデリヒをハイデリヒとして初めて見れた瞬間だったのではないだろうか。

これに対し。
自分ごしにアルを見ているからこそ、自分には心を開いてくれていたエド。
それが、アルとの再会により、自分は別世界の住人の烙印を押され、はじめてハイデリヒとして見てくれた。
ハイデリヒにしてみればひどい話だ。
いつも投げやりなエドが自分のロケット開発を必死に止めるのも、自分の為やこの世界の為などではないことなどすぐに分かってしまっただろう。
エドがこの世界の為に動くわけがない。
全ては、アルと、鋼世界の為にしかこの人は動きはしないのだと。
「ここはぼくの世界です。ぼくが生きていたという証を、残したいんですよ。あなたにはなにも言う資格はない」
あなたにとっては何の意味も持たないこの世界で、何かを残したいと思っている自分はさぞ滑稽に見えるでしょうけどね。そんな風に聞こえた。
ハイデリヒの苛立ちは分かる。
ひどい人だと、突き放した。そう思った。

なのに、何故ハイデリヒはそんなエドをロケットに乗せようと思ったのだろう。

「ぼくが行って欲しいんだ」
その表情はひどく穏やかで満足気だった。
エドを振り払ったあの苛立ちが嘘のように見えた。
自分はやりたいことをやる。あなたに指図される言われは無い。
そうまで言い放った相手に何故こんな事が出来るのだろう。
そんなに向こうの世界が大切なら送り返してやる、そんな売り言葉や買い言葉には見えない。
そこまで故郷を愛するエドへの哀れみにも思えなかった。
「『ぼくが』行って欲しいんだ」
その言葉に全ての答えがあるような気がした。
アルに会えた事で自分を不要のものにしてしまったエド。
アルが生きていた、アルに会えた、アルがいれば自分は元の世界に戻れるかもしれない。
そう嬉々として語ったエド。
エドにとって、こちらの世界のロケット工学など何の役にも立たなかった。
ハイデリヒはアルの代わりになど成れなかった。
結局現実世界はエドに何も与えない、無意味なもの、不必要なもの。
エドにそんな風に思われたくなかった。自分の存在を否定されたくなかった。
だから、現実世界で生きているアルフォンス・ハイデリヒが、エドを向こうの世界に帰したかったのだと。
エドに、不必要な存在だと、無意味なものだと思われたくなかった。
現実世界に住む自分がエドに何か与えられることを証明したかった。
エドを元の世界に戻すのは、エドの弟のアルじゃない。この現実世界にいるアルフォンスなのだと。

気づいただろうか。二人が互いの目を見て会話しているのはこのシーンだけなのだ。
エドがロケット開発に一番熱心だった2年前はありふれたものだっただろうはずなのに。
ロケットを飛ばしさえすれば願いは叶うと信じていた、あの頃。
二人の気持ちにきっとへだたりなどなかっただろう。

弟に会いたいんだろ? 元の世界に戻りたいんだろ?
この世界を拒絶してまで欲しいものなら、どうして手を伸ばさないのさ。
そういって叱咤したなら、その様子はきっとアルにそっくりだったかもしれない。
方法が目の前にあるのに敢て無視するなんて馬鹿だ。
まるでアルのようにそんな風に言ったかもしれない。

ハイデリヒはアルじゃない。
けれど、確かにもう1人のアルなのだ。
それをどうしてエドは認めてあげられなかったのだろう。
all or nothing。アル本人か、そうでない存在か。
そこまで頑なに切り分ける必要などなかったはずなのだ。
「ぼくはぼくだ。確かにここにいる。忘れないで」
アルなら例え鎧に魂を定着した身体であっても「ここにいる」と、その存在を肯定してあげられたのに。
何故アルフォンスの存在を同じように肯定してあげられなかったのだろう。
アルと同じ魂を持った存在なのに。

ハイデリヒにエドは言う。「オレが邪魔なのか?」
あれだけ人を拒絶しておいて言うのか? あなたは本当にひどい人だ。そう思っただろうか?
それとも。
少なからず自分を気にかけ、そばにいたいと意思表示してくれた事に、少しでも嬉しく思っただろうか。

ハイデリヒと向き合えたことで、エドは世界と向き合うことが出来るようになった。
ハイデリヒが残したものは、何もエドを鋼世界に戻してあげたことだけじゃなかったのだと。
そう思いたい。

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