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ユリイカ 2010年12月号 感想4

『鋼の錬金術師』から読み解く国家と民族 早尾貴紀
 
何かについて知ろうとするとき、人は一番自分にとって近しい一番理解しているものにそれを投影し置き換える事で、それを理解しようとするものなんだろうな。
  
だから、早尾貴紀さんはアメストリスにイスラエルを見て、その次の論考、大田俊寛さんはアメストリスにドイツを見る。
また同じ「戦争」というものを通して語りながらも、早尾さんは「この国のかたち」にこだわり、大田さんはナチズムを背景にマンガやアニメにおける構成について述ベている。
このふたつを並べて掲載出来るってのがまた、この編集の美味しい処なんだろうな。
 
さて本編感想です。
アメストリスとパレスチナが似ていると書かれてるけれど、本当にそうなのかな?
あまり歴史に詳しいわけではないけれど。
 
領土拡大のための戦争、それに伴う民族浄化

それ自体は、氏が述べるまでもなく人間の歴史の中でそして日本でもまた繰り返し行われてきたものであり、さして特殊なものではない。

人為的な建国

おそらくそこだけがパレスチナと他の国の戦争と異なっている箇所なんじゃないだろうか?
 
ではアメストリスのそれは他と何が違うのか?
 
「奴らはこの国を利用して何かをしようとしているわけじゃない 何かをするために一からこの国を作り上げたのか?」
「第67話 この国のかたち」の真骨頂はここにあると思っている。
 
つまりどの国を奪うのでも良かったわけじゃない。
国土錬成陣の大きさをあらかじめ定め、それにふさわしい地形を選んだ。
血の紋を刻むべき焦点がジャングルや海だったら困るよね。
そして国土錬成陣がすっぽりおさまる分だけ占領地下にする。
それを過ぎれば領土を拡張する必要はない。
他国からすれば不気味だったんじゃないのか?
国の一部を奪われ、すわ国家全て飲み込まれるかと思いきやそれ以上には攻めてこないのだから。
民族浄化も、戦地も、全て血を流すべき場所さえ定められていた。
もしその地に人が少なければ、敢えてそこでクーデターを起こさせたり、宗教を広め人をよせ集めたりしたのだろう。
どれだけ裏でホムンクルスが暗躍していたことか。
 
こんな莫迦な真似が現実の戦争で起こるわけがない。
領土拡大は国益の為ではない。国の繁栄、国民が豊かに暮らしていける為のものではない。
アメストリスの不気味さは、ただひたすら国を滅ぼす為に、国民から命を奪う為、国民を増やし国を広げることを、国民自らに行わせていたこの矛盾にある。
  
ちなみに、アメストリスは人為的な建国ではない。
実際には年表を調べれば分かるのだけど。
クセルクセスが一夜にして滅びたのはアメストリス建国の後だ。
 
アメストリス建国
クセルクセス崩壊
西の賢者来訪
リヴィエア事変
 
これが正しい順番のはず。
だからお父様は直接建国には立ち会っていない。
その意味でも、パレスチナとは異なっていると言えるだろう。
 
また。
 
国土錬成陣が無化された以上、その国土が、すなわち国家そのものが、「解体」に向かうことがあってもいいし、むしろそうなるのが当然の流れなのではないだろうか。復興の先の少し長い将来においては、きっとそうなってほしいと、読解を超えてそう願わざるをえない。
 
すでにアメストリスという国に統合された国をいまさら解体するなんて事は有り得るんだろうか?
一番最初のリヴィエア事変などもうすでに350年昔に併合されている。
確かに、アメストリスが戦争続きで国自体疲弊している事は、「銀英伝」風に言えば、野良犬の肋骨が見えるほどやせ衰えている様子を見れば明らかだ。
 
それでも今更独立なんて考えるものなんだろうか?
日本でいうなら、今になって沖縄や北海道をひとつの国として独立を認めようとするようなものだろう?

けれど。 スペインのバルセロナでは道端に「We are not Spanish」と書かれた看板を見かけた。
彼らは自分達をスペイン人ではなくカタラン人だと言いカタラン語を話す(勿論スペイン語もしゃべるが)。
今なおスペインに侵略された歴史を彼らは忘れていない。
アメストリスにもそんな地域がもしかしたら有るかもしれない。 
 
西の国境戦線の停戦。イシュヴァールの復興。
それくらいからならもしかしたら出来るのかもしれない。
血の紋は一度使うともう使えなくなるものなんだろうか分からないけれど。
もう二度と国土錬成陣が発動しないよう、錬成陣を描けないよう、この国のかたちを変えてしまうというのは、実はアメストリスにとってもいい事なのかもしれない。そんな事を思った。
  

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